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Note

制作ノート2019前期 

2019年前期の制作ノートとして

(1)背景画制作の過程で考えたこと、

(2)私の制作に影響を与えた作品、

(3)背景美術家男鹿和雄氏について、

(4)制作中に感じたこと、を記す。

1.制作技法

 「手描き」は「デジタル描き」より、紙や絵の具、筆などを大事に使うことや、描き間違えたら修正が難しいことから、制作に緊張感を伴う。それは、『絵を描くことに敬意を持っている』とも言える。私は 「手描き」の経験がまだ少ないから、失敗や描き直しの時が多い。その失敗から積んだ経験を以下にまとめる。

(1)最後の完成まで諦めないこと。

(2)明暗のコントラストが足りないと、絵全体がきれいに見えない。

(3)筆をうまく使うことによって、絵の質感を出すことができる。ひたすら素直に描くより、少し筆を横に向けたり、軽くタッチしたり、ブラシでグラデーションを作ったり、いろいろな筆づかいで変化をつけること。

(4)透明水彩と違い、不透明水彩の最初の下書きは細かく描かなくても良いこと。

 

2.私に影響を与えた作品「おもひでぽろぽろ」について

 最初は背景美術の美しさに引き込まれ、見終わった時、まるで長い旅に出かけたように、ほーつと深く息をした。随筆を書くように繊細なタッチで、心臓の一番柔らかなところを優しく拭いてくれた。

 その中で、深く共感し、制作者の方たちに敬意を持つようになったシーンがある。それは、タエ子が紅花を摘む時、山の端から射し込む朝日に、手を合わせて拝んだシーンだ。なぜなら背景はただ美しいよりも、山、光、農業と人間の関係性を表現し、清浄な雰囲気を見る人に伝えているような気がしたからだ。そして共感を呼んだ理由は自分も小さな頃田舎で同じ経験をしたからだ。その時は夜明け前に畑へ出かけ、クコの実を摘んだ。朝日が空に昇る頃、畑が光の色に染まり、作業に集中していた農婦たちも手を止め、山の端から顔を出す朝日を見つめていた。神聖な雰囲気として私の記憶の中に残っている。

 私の生まれたところは 人間の生きるところじゃないと言われたほど過酷な自然環境で、農業も難しい所だが、クコの実だけはよく育ち、中国国内でも有名だ。今考えてみたらおそらくそこで生きている人たちの勤勉と不屈、万物に命を与えた太陽の光と独特な気候のおかけだと思う。 自分の出身地にコンプレックスを持っていた頃があるが、この映画のおかげで、どこで生まれても、どこで育っても、その経歴は既に自分の一部になっていることを認識した。そして、今の自分は過去から育てられて、あの頃の時間を財産として、未来の自分へ会いに行く。

3.男鹿和雄氏について  

 私の男鹿和雄氏を好きになったきっかけは、 雨の農家が描かれた一枚の背景画だ。その絵に一目惚れし、その絵の作者を探したところ、男鹿氏の名前を見つけた。

 雨の中、霧に包まれ、仄かに見える遠い山、 水たまりの水面に逆さまに映っている農家、黄色の箱、軒下に掛かっている雨粒などが、静かに深く私の心を揺さぶった。この絵を見た瞬間に「この絵が描かれた世界に入りたい、農家の窓から外の雨音を聞きたい」と強く感じた。

 男鹿氏はきっと心が優しい人だと思う。なぜなら、周りの景色を細かく観察し、色合いを工夫して、そして繊細なタッチで、人間が生きている空間を伝えているからだ。世界観と人生観をもっと知りたいと思い、画集と「秋田、遊びの風景」を買った。そこで、氏の思いや思想を読みながら、「あっ、なるほど、そういうことだ」と共感し、自分の人生観も少しずつ変わった。悩むことは山ほどあるのかもしれないが、人間が生きられる時間はただ数十年しかない。せっかくこの世界に生まれてきたので、様々なことを体験し、観察して、他の生命と出会い、そして新しい毎日に感謝の気持ちを持って生活していくのが良い人生なのだと思えるようになった。

 

4.『リアル』についての私の理解

 作品の中の一枚のアニメーション背景画を描き終わった時、一番気分が複雑になる評価は「あなたの絵は写真みたい」だ。なぜなら、その評価は絵自体の意味がなくなるからだ。そこから、私がよく考えている疑問の一つは、『リアルとは何?』。

 パースペクティブが正しく、物理的に光が当たるところが明るく、当たっていないところが暗いという原理に従って、カメラが写す画像と全く同じように描くのがリアルではないかと思ったこともあった。しかし、いろんな人が描いた背景画を見れば見るほど、自分の以前の考え方があくまでカメラのレンズの真似に過ぎないと認識した。人間は目、心と頭がある。同じ景色の前に立っても、その時の心境や知識と、見ている景色がそれぞれ違ってくるのだと思う。

 アニメ作品中の背景画に注目していると、ある一部分だけ色が縞麗だけれど、やや現実的にはありえないなと思うことがあるが、そのシーンの主人公の心境や物語の内容、描く人の性格を考えあわせて、「なるほど、これはその人なりの表現だ、素晴らしい」と今は思えるようになっている。

 すなわち、私にとっての『リアル』というのは、私の持っている美意識とその場所の認識、そこで表現すべき感情を重ねて描くということだと思う。

 製作中、深く考えてしまうことがあり、私が自分という存在の認識がだんだん変わっている。この作品を通して、自分の考えや世界観を他の人に伝えていきたい。

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